トラウマ・つらい記憶
児童相談所での心理士としての仕事、心療内科での虐待サバイバー(虐待を生き延びてきた人)のカウンセリングを通して、トラウマについての私の今の考えをご紹介します。
参考になれば幸いです。
1.トラウマは心理的な問題<身体的な問題
虐待にかかわらず、人は悲しい思い、辛い思い、そして命の危機を感じるような出来事で、トラウマという名の、一種の”人生観を決めてしまう(変えてしまう)出来事”を抱えます。
さて、トラウマを抱えてしまっても、人生は続くことになります。逆境を生き延びたあとに、何が困るのでしょうか?何に困っていますか?
悪夢
人を信頼できない
パートナーとうまくいかない
子どもにどう接していいかわからない
突然の不安感、不調感で安定して働けない
人は「〇〇すればいいのよ!」というが、それができない…。
おおよそ、「生きづらさを抱える」ということなのではないでしょうか。
もちろん、自分を叱咤激励したり、いろんな薬や健康法を試したり、短期的にはがんばれたりする。
でも、「自分の心持ち」で解決したことは少ないはずです。
人を目の前にすると緊張して頭が真っ白になる
楽しい時間を過ごすと、後からとてつもない不安が押し寄せる
いつも嫌なことばかり頭の中をめぐって落ち着かない
何も言わなくてもそばにいる人が不機嫌なのが伝わってくる
大勢の中にいると「自分だけが違う」という違和感をぬぐえない
そういったことを、意識や心の持ちようで解決できたことがあるでしょうか?
「わかっていても」緊張する、「わかっていても」不安になるのではないでしょうか。
これはトラウマに向き合う上でとても大切なことですが、
トラウマは心理的な問題よりも、身体的(神経的)な問題なのです。
「わかっていても」自律神経が反応して、私たちに不安や緊張を引き起こしているのです。
いつ命が危険にさらされても、生き延びれるように。
そのくらい、虐待やマルトリートメント(不適切な養育)を受けた人の環境は過酷なものであったということです。いくら一時的に幸福な時間があっても、やさしくされても、大丈夫だと思える環境になっても、身体はいつでも危機に対応するモードのまま、準備してくれています。
私のカウンセリングでは、十分に安心していただければ、クライエントさんの許可の上で身体へのアプローチを行っています。いくら涙をながしても、延々と話しても、日常に戻れば緊張と不安のループが待っているときがあるから。
身体にありがとうを言って、身体ががんばってくれていたことを感じ、身体の不調、不安緊張を手放す。
そのプロセスをご一緒させていただけたら私もうれしいなと思います。
2.なぜカウンセリングが必要なのか
インターネットでいろいろな情報が手に入る今、「トラウマから自由になる」とか、「自己肯定感をあげる」など、いろんな情報が無料で手に入ります。優秀なカウンセラーが何冊も本を出し、知識はたくさん得ることができるのです。
しかし、それでもなぜ、わざわざ(オンラインであっても)対面のカウンセリングが必要なのか。
その理由を次にご紹介します。
①並走する人が必要だから
一人きりでトラウマに向き合うのは、非常につらい作業です。やりはじめたら最後、いろんな声が脳内に聞こえる方も多いのではないでしょうか?
「お前が受けたのは虐待ではない」
「まだ甘えていたいのか?」
「そんなことをしても無駄だ」
自分でもやっていることが正しいのか、どうすればいいのかわからなくなる時が多いのではないかと思います。そういう時に、一緒にいて、見守ってくれる人が必要です。
パートナーやご友人に恵まれ、トラウマに向き合いつつも他者と適切な距離をとれる方は良いのですが、そこまで他者を信頼できなかったり、辛すぎて他者とのつながりどころではない方も多くいらっしゃいます。
そういうときに、専門知識があり、契約があるカウンセリングはいかがですか?
時間や場所が決まっている中で、自分を主役にして話す時間は楽しいものですよ。
トラウマに触れ、溶かしていくには、並走して見守るパートナーが必要です。
ぜひ、私でも、私以外でも、良い出会いを探してみてください。
②すぐ元に戻るから
これは回復の初期の話ですが、調子の良い期間がでてきても、すぐ元に戻ります。
これは絶対です。
なぜかというと、1.でご紹介したように、トラウマは命の危機にそなえるための反応だからです。そして、実際にここまで命をながらえさせた実績があるからです。
それをすぐに解除すると、「油断したら死ぬかもしれない」と身体は考えるからなのです。
元に戻るとがっかりするし、「効かなかった」と投げ出したくなるし、
いつしか自分がトラウマに向き合っていたことすら忘れてしまいます。
そして、今までと変わらない、厳しい毎日が続いていきます。(それがトラウマの役割なのだからしょうがないといえばそうなのですが)
定期的にカウンセリングに来ることで、自分がどんな状態なのか知り、元に戻ったときにも、それを切り抜けるための解決策を話し合うことができます。「戻ったじゃんばーか!」という八つ当たりもできます(笑)
私はそういう時期もすべて含めて、並走し、回復をお手伝いしていきたいと思っています。
トラウマは、役割を終えれば消えていきます。
ぜひ、新しい世界を一緒に見て、感じていきましょう。
嫌なことが頭に浮かばず、1杯のコーヒーを楽しめる人生へ。